癌を免疫の力で治そうとする試みは古くから行われていました。いわゆる、免疫療法です。
その中でも近年、大きく注目を集めているのがPD-1という分子を標的にしたPD-1抗体というお薬です。
PD-1抗体という名称ではなじみのない方も、オプジーボといえば聞いたことがあるのではないでしょうか?
このPD-1抗体、点滴薬です。オプジーボ、キイトルーダがPD-1抗体の商品名です。
オプジーボもキイトルーダも、作っている製薬会社が違うだけで、ほぼ同じ効果であると考えられています。
さて、このPD-1抗体ですが3つの「注目すべき点」で有名になりました。
1つ目の注目すべきところ
ほくろの癌(メラノーマ、悪性黒色腫)に効いた。
メラノーマは治療が難しい癌で、これまでの化学療法はほとんど効きませんでした。
新しいお薬、いくつかの抗がん剤の組み合わせなど、多くの臨床研究(治験)が行われてきましたが、どれも科学的には有効とは言えない結果です。
治療が難しいメラノーマに対して効いたことから、世界中で大きな注目を集めました。
肺がんにも効果があり、今では多くの癌に使用可能となっています。
さらに、ずっと効き続ける患者さんがいることがわかりました。
これまでの抗がん剤は、はじめは癌が小さくなっても、ある時期から大きくなる「耐性」という問題がありました。
しかし、PD-1抗体は耐性が出来ない患者さんもいることで、癌を完治させる可能性があるお薬として期待されています。
2つ目の注目すべきところ
いろんな癌に効いて治療効果が長い。
欧米ではメラノーマは多いですが、日本では少ない癌に含まれます。
そのため、日本でPD-1抗体が使える患者さんはあまり多くはありませんでした。
PD-1抗体は、メラノーマで効果を確認された後、肺がんでもその有効性が証明されました。
その後、ホジキンリンパ腫、腎癌、胃がんなど多くの癌腫で効くことがわかっています。現在は多くの患者さんで使用可能です。
しかし残念なことに、全員に効くわけではありません。
効果が出る割合はがんの種類によって変わります。
例えばメラノーマの場合は40%くらいの人(10人中4人)は癌が小さくなるけれど、胃がんの場合は10%の人(10人中1人)にしか効かないと報告されています。
さらに複雑なことに、日本人と欧米人でも効果に差がありそうで、日本人のメラノーマは20-30%くらいの人にしか効かないようです。
3つ目の注目すべきところ
PD-1分子は日本人が発見 ―ノーベル賞候補―
PD-1は1992年、京都大学の本庶佑先生が発見された分子です。
もともとは「アポトーシス」という現象に関連して見つかった分子であると聞いています。
研究を進めるうちに、免疫に大きな影響を与えることがわかり、新しい抗癌剤の候補になりました。
それから多くの苦労があり、2012年、素晴らしい効果が得られたとの論文発表がありました。
ところで、日本では薬剤の承認が遅いとよく耳にします。
海外では使える薬も、まだ日本では使えないといったことが時にあります。
なんと、オプジーボは世界に先駆けて、日本で初めて使えるようになった薬剤です。
これは国立がんセンター山崎直也先生をはじめとした全国の皮膚科の先生方がオールジャパン体制で治験に取り組んだ賜物であると思います。
日本人研究者が発見して、日本ではじめて使えるようになったPD-1抗体。
私もPD-1抗体を正しく使って、患者さんの役に立てるよう頑張っていきたいと思っています。
以上、PD-1抗体の注目すべき点3つを取り上げました。
もちろん、お薬ですので効果には個人差があります。
また、独特の副作用もありますので注意が必要です。
PD-1抗体が引き起こす副作用に関しては別の記事で解説したいと思います。