メラノーマを診断する際に、ABCDルールが役に立つと以前説明しました。
ダーモスコピーという虫眼鏡のような機器を使うと、ほくろやメラノーマをより詳細に観察ができます。
ダーモスコピーの登場により私達皮膚科医はメラノーマの診断精度を向上させました。
そんな中、AIのメラノーマの診断精度が皮膚科医を上回るという研究成果が発表されました。Annals of Oncology
この研究でははじめに、ほくろとメラノーマをダーモスコピー画像のみで良性か悪性か判定します。
その結果、皮膚科専門医の診断感度(メラノーマを正しくメラノーマと診断できる割合)は86.6%であったのに対し、AIは95%でした。
一方、診断特異度(ほくろを正しくほくろと診断できる割合)は、皮膚科専門医で71.3%なのに対し、AIは63.8%でした。
この結果から、AIは皮膚科専門医よりメラノーマの見落としが少ないことが言えます。
ただ、特異度は皮膚科専門医より低いことから、ほくろをメラノーマと誤診してしまう可能性はAIの方が高いです。
さて、この研究には続きがあります。
患者さんの詳細な情報を追加した上でもう一度診断テストをしています。
その結果、皮膚科専門医の診断感度(メラノーマを正しくメラノーマと診断できる割合)は上昇し88.9%であったのに対し、AIは同程度でした。
一方、診断特異度(ほくろを正しくほくろと診断できる割合)は、皮膚科専門医で75.7%なのに対し、AIは82.5%でした。
つまり、AIはメラノーマを見逃さないし、ほくろを間違ってメラノーマと誤診することも少ないという結果になりました。
すごいですね。
こうなるとメラノーマの診断に関しては、AIが医師にとって変わるのではないか、という意見が出てきます。
皮膚科医 対 AI ?
現在の医療では既に、自動診断システムは使われています。
例えば、心電図は機械が自動で診断し、その結果を医師が確認する方法が取られています。
同じように、メラノーマの診断もAIによる自動診断システムが登場するかもしれません。
しかし、AIによる自動診断システムは補助診断機器として活用されることになると思います。
さて、将棋の世界ではAIがプロ棋士に勝つことが当たり前になってきました。
こうなると、同じ人間としてはプロ棋士がAIに勝つように応援したくなります。
勝負の世界ですから、勝つか負けるかが大事になります。
私達の興味の対象はAIが勝つかプロ棋士が勝つかですが、医療の場合は決して皮膚科医とAIの戦いではありません。
メラノーマ対ヒトとAIの連合軍です。
特に、小さなメラノーマは目に見ただけでは診断が難しいことがあります。
メラノーマの初期の段階でAIが診断をサポートしてくれるのはとても心強いことです。
この先、ダーモスコピーのようにAIを強力な診断補助ツールとして使えるようになると良いですね。