オプジーボに先駆けて、がん免疫療法の世界に登場した薬剤がヤーボイ(イピリムマブ、CTLA-4抗体)です。
ヤーボイは免疫力を高めるお薬ですが、オプジーボとは違う機序で作用します。
今回はこのヤーボイについて解説したいと思います。
免疫ががんを攻撃する2つのステップ
人間の体ががん細胞を攻撃できるようになるには、重要な2つのステップがあります。
まず1つ目が、がん細胞を異物と認識するためのステップ。
2つ目が、がん細胞を攻撃するステップです。
がん細胞が敵であることを体が覚える最初のステップをプライミングフェーズ (priming phase)、敵と認識したがん細胞を攻撃するステップをエフェクターフェーズ(effector phase)と言います。
オプジーボは、PD-1とPD-L1の接着を阻害し免疫細胞を活性化する薬剤であることは以前の記事で説明しました。
これは、がん免疫のステップでいうと2つ目(エフェクターフェーズ)での作用です。
一方、ヤーボイの場合は最初のステップであるプライミングフェーズで効くと考えられています。
プライミングフェーズで何がおきているのか?
まず、プライミングフェーズで起きている免疫システムについて説明したいと思います。
皮膚に出来たメラノーマはいろんな過程を経て、皮膚に存在する樹状細胞という免疫細胞に取り込まれます。
この樹状細胞はいわゆる「監視細胞」で、細菌やがんなどあらゆる敵を監視しています。
樹状細胞がメラノーマを発見しその一部取り込むと、今度は免疫細胞のたまり場であるリンパ節へと移動します。
最前線にいた見張り(樹状細胞)が仲間の兵士たちがいる基地(リンパ節)に敵(メラノーマ)の情報を知らせに行くような感じです。
リンパ節では、敵の攻撃に備えてもともと集まっていた免疫細胞たち(この場合は細胞傷害性T細胞、キラーT細胞)に情報を伝えます。
メラノーマの一部を樹状細胞は敵の情報として細胞傷害性T細胞に差し出し、メラノーマの特徴(メラノーマ抗原)を覚えてもらうわけです。
そうするとリンパ節ではこのメラノーマ抗原を敵と認識した細胞傷害性T細胞が活性化して増殖します。
ブレーキとして働くCTLA-4
さて、細胞傷害性T細胞は敵の進攻時には役に立ちますが血気盛んな状態が続くと何をするかわかりません。
もしかしたら間違って仲間を傷つけてしまうかもしれない。
そこで、人の体には細胞傷害性T細胞(リンパ球)のブレーキとして働く分子が存在します。
それがCTLA-4分子です。
細胞傷害性T細胞はCTLA-4分子からの刺激がはいると、ブレーキがかかり不活性化します。
ブレーキを解除して再び活性化させるヤーボイ
ヤーボイはCTLA-4分子の接着を阻害します。
このため細胞傷害性T細胞はCTLA-4分子からのブレーキは解除され再び活性化します。
こうして再び攻撃態勢を整えた細胞傷害性T細胞が活性化、増殖しがん細胞と戦えるようになります。
まとめ
ヤーボイは免疫細胞のブレーキの働きを担うCTLA-4分子を阻害する薬剤です。
プライミングフェーズで作用し細胞傷害性T細胞(リンパ球)を再活性化します。
がんに対する免疫力があがる一方、間違って自分の体を傷つけてしまうこともあります。
この間違って自分を攻撃してしまう副作用(irAE)は別記事で解説しています。
参考にしてください。