オプジーボが効くか効かないかーバイオマーカーの話―

チェックポイント阻害剤(オプジーボやキイトルーダ、ヤーボイなど)は一定の患者さんに効果を発揮します。

しかし、全く効かない患者さんが存在することも確かです。

オプジーボ(PD-1阻害剤)を使う前に、効くか効かないか知ることが出来れば必要ない副作用で苦しむこともありません。

効くか効かないか予測する因子、これを一般的にバイオマーカーといいます。

実際にオプジーボ(PD-1阻害剤)ではいくつかのバイオマーカーが報告されています。

ここでは効果を予測するバイオマーカーとして3つ紹介したいと思います。

腫瘍内にいるリンパ球(腫瘍浸潤リンパ球)

がん細胞を攻撃し排除するためにはリンパ球が必要です。

これを腫瘍浸潤リンパ球、tumor infiltrating lymphocyte(TIL:ティル)といいます。

細胞傷害性Tリンパ球がPD-1阻害剤の力を借りて活性化することで腫瘍を攻撃します。

がん細胞を攻撃するためには、このリンパ球ががん細胞の近くにいなくいては意味がありません。

オプジーボ投与前に、がん組織の中にこの細胞傷害性Tリンパ球が多くいるかどうか、これが効果を予測するバイオマーカーの1つとなります。

がん細胞の遺伝子変異の数

がん細胞は様々な遺伝子変異が起こります。

例えば、細胞増殖をストップするような遺伝子に変異が起き、がん細胞が制限なくどんどん増殖してしまいます。

高校で生物を学んだ方は既にご存知かと思いますが、遺伝子はその配列によって最終的にタンパク質を作ります。

タンパク質の設計図が遺伝子です。

遺伝子変異があるということは、この設計図に異常があるということです。

設計図に異常があれば出来上がったタンパク質も予定とは違う変なものが出来ます。

細胞増殖をストップするような遺伝子であれば、遺伝子異常から異常なタンパク質が出来、異常であるため正常の働きができません。

人間の体は普段、自分の体の中にあるタンパク質は自分のものとして認識して免疫は攻撃しません。

しかし、異常なタンパク質は別です。

異常なタンパク質は自分ではなく敵と認識します。

ここでオプジーボは、がん細胞が作った異常なタンパク質(これをガン抗原と言います)をやっつけにいくリンパ球を応援します。

さてさて、がん細胞に遺伝子異常がたくさんあるとどうでしょうか?

遺伝子異常が多いがんは、多くの異常なタンパク質を作ります。

たくさん異常なタンパク質があったほうが、人間の免疫は攻撃対象が増えます。

多くの細胞傷害性リンパ球が、標的を別としたがん細胞への攻撃を開始します。

オプジーボはこのリンパ球の機能を活性化しますので、結果、多くのがん細胞を殺せます。

つまり、がん細胞が多くの遺伝子異常を持っていればいるほど、免疫のターゲットとなりやすくオプジーボが効きやすくなるわけです。

がん細胞の遺伝子異常の数(mutation burden)を治療前に調べることが出来れば、オプジーボが効くかどうか予想がつくのではないかと考えられています。

しかし、残念ながらがん細胞の遺伝子異常の数(mutation burden)は保険では調べることが出来ませんし、あくまでも予想の範囲での推測しか出来ません。

がん細胞が発現するPD-L1

オプジーボやキイトルーダなどのPD1阻害剤は、PD-1とPD-L1の接着を阻害することでリンパ球を活性化します。(どうやって効くか?はこちらを参照

PD-1とPD-L1の接着は免疫機能のブレーキであり、このブレーキを解除することでより攻撃力を高めるわけです。

オプジーボなどのPD1阻害剤が効くためには、このブレーキがかかっていることが前提になります。

つまり、がん細胞がPD-L1分子を発現し、そこにいるリンパ球がPD-1分子を出してブレーキをかけられた状態を想定しています。

ところがPD-L1分子はすべてのがん細胞が発現しているわけではありません。

全くPD-L1を発現していないがん細胞もいます。

リンパ球ががん細胞を攻撃できない理由として、PD-L1の発現が考えられているのですが、この前提が成り立たないのであればPD-1阻害剤は効かないはずです。

がん細胞(腫瘍組織)のPD-L1の発現があるのかないのか、多いのか少ないのかは、オプジーボの効果を予測する上で大事な因子です。

肺がん領域、また、メラノーマではオプジーボとヤーボイの併用療法で、がん細胞のPD-L1発現を事前に検討することが求められています。


まとめ

オプジーボの効果予測因子(バイオマーカー)として代表的なものを3つ紹介しました。

1つ目は、腫瘍組織へのリンパ球浸潤

2つ目は、がん細胞の遺伝子変異数

3つ目は、がん細胞のPD-L1発現

です。

出来る検査と出来ない検査は施設によって異なります。

また、保険でカバーできないものもあります。

がん細胞の遺伝子変異を調べるためには、特殊な技術と設備が必要です。

オプジーボ投与前に検査が必須となっているもの(肺がんとキイトルーダ、メラノーマのチェックポイント阻害剤併用療法)以外は、研究レベルであり普段の臨床で応用するにはまだ時間がかかるものを考えておいたほうが良いでしょう。

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