オプジーボやキイトルーダなどのPD-1阻害剤は、効果の出る患者さんと効果が出ない患者さんがいます。
薬剤投与前に、効果予測が出来れば、必要ない副作用で苦しむこともありませんし、医療経済面でも望ましいことです。
使用前に効果を予測する因子、これをバイオマーカーと呼ぶことは以前の記事で紹介しました。
また、効果を予測するバイオマーカーとして代表的なものを3つ(腫瘍浸潤リンパ球、がん細胞の遺伝子変異の数、PD-L1の発現)を紹介しました。
この中で肺がんではPD-L1の発現を保険適応で測定することが出来ます。
今回はこのPD-L1の発現に関して、もう少し掘り下げて解説したいと思います。
がん細胞が発現するPD-L1
オプジーボやキイトルーダなどのPD1阻害剤は、PD-1とPD-L1の接着を阻害することでリンパ球を活性化します(詳しいメカニズムについて知りたい方はこちら)。
PD-1とPD-L1の接着は免疫機能のブレーキであり、このブレーキを解除することでより攻撃力を高めます。
しかし、がんによってはこのPD-L1分子が発現していないものがあります。
メラノーマ(悪性黒色腫)の場合は、論文によって異なりますが、約20-60%程度のがん細胞がPD-L1を発現しています。
では、PD-L1の発現だけ見れば効果が予測出来るのでしょうか?
実はそうシンプルではありません。
PD-L1の発現解析の限界
PD-L1の発現だけ確認しても完璧に効果の予測が出来るわけではありません。
そこには理論的、技術的にいくつかの問題があります。
染色の不均一性
PD-L1の発現を見る場合、免疫染色という方法を用いてがん組織を解析します。
検査や手術で採取した検体を用いるのですが、検体の保存状態によってはPD-L1の発現が見れない場合もあります。
保存が悪かった検体では正確な判定は出来ません。
次に、PD-L1の発現ですが、がん組織全体の中でも部位により違うことが知られています。
がん組織の一部がPD-L1を発現していて、その他の部分は発現していない。
PD-L1はがん組織全体で均一な発現をしているわけではありません。
したがって、評価した部位がたまたま陽性だったり、たまたま陰性だったりする可能性も残ります。
さらに、PD-L1の発現は治療によって変化します。
PD-L1陰性(つまりPD-L1を発現していない)であったがん組織が、ある種の抗がん剤を使うことによってPD-L1陽性(PD-L1が発現)となることも報告されています。
いつの検体を用いてPD-L1の発現をチェックするか重要になります。
PD-L1陽性の免疫細胞の存在
がん細胞がPD-L1を発現することはこれまでに何度も説明しました。
ここで更にややこしいのは、一部のリンパ球もPD-L1を発現することです。
PD-L1を免疫染色で判定する場合、陽性細胞ががん細胞か免疫細胞かを見分けなければなりません。
この判別には、ある程度の経験と技術が必要となります。
がん免疫のブレーキをかけているのはPD-L1だけではない
PD-1とPD-L1の接着によりリンパ球がブレーキをかけられ、がん細胞への攻撃が抑えられているとお話してきました。
しかし、がん細胞が体の免疫から逃れているシステムはこのPD-L1だけではありません。
詳しい分子の紹介は今回省略しますが、PD-L1の仲間である他の免疫チェック分子とよばれるものも免疫にブレーキをかけます。
PD-L2という分子も存在します。
また、制御性T細胞というリンパ球も違うメカニズムでがん免疫を抑制します。
さらにさらに、マクロファージというリンパ球も一部はがん細胞に味方することが知られています。
これら細胞は私達の体にいる同じ仲間なはずなのに、がん細胞に悪く利用されるわけです。
まとめ
オプジーボの効果予測因子(バイオマーカー)としてのPD-L1発現とその限界について説明しました。
がん細胞が免疫から逃げるシステムはいくつも準備されています。
その中でPD-L1が重要な逃避システムであることは間違いありません。
PD-L1の発現だけを頼りに治療効果を予測するのは不十分であり、いろいろな要素を加味することが必要です。
PD-L1の発現を見て効果を予測するというのは、全体の平均でみると正しいけど個別では参考程度かそれ以上、という評価です。
反対に、PD-L1の発現が低くとも治療効果が出る可能性もあるということです。