医学の進歩はとても早く、自分の専門分野以外の最新情報を入手するには絶えずアンテナを張っていないといけません。
特に新薬に関する情報は、積極的に勉強しないとあっという間に置いていかれます。
ただ、一度にすべての分野を勉強するのは難しく、だれか一冊の本にまとめてくれないかしら、と思っていました。
そんな中、新薬に関する特別号の編集に声をかけてもらいました。
病気に関連する特定の分子をターゲットとした、分子標的薬に関する本です。
一般の方には難しい内容ですが、メラノーマ、乾癬、アトピー性皮膚炎の新薬に関する情報を、新薬の作用機序を含めて解説しています。
(編集企画にあたって・・・より抜粋)
私がスイスに留学する2012年、本邦では乾癬に対する生物製剤がいくつか登場し使用可能でした。NEJMに、免疫チェックポイント阻害剤ipilimumabに関する研究が発表されましたが、(私の周りでは)今ほど大きな注目を集めていなかったと記憶しています。当時、メラノーマは戦えない癌であり、乾癬はまだまだ治療に難渋する疾患でした。そこから5年、時代は大きく変化しました。乾癬に対する多くの生物製剤、メラノーマに対する分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の登場、さらには、今後アトピー性皮膚炎に対する生物製剤が利用可能になります。これら新薬は全て、基礎医学での重要な発見がベースとなり、新規ターゲットを狙ったトランスレーショナルリサーチの成功例です。病態に大きく関わる標的分子を抑えるこれら新薬をまとめて「分子標的薬」と捉え、本企画を編集いたしました。
癌からアレルギーまで、皮膚科領域でも広く使用可能となった分子標的薬ですが、その作用機序、使い分け、新たな副作用など、自分の専門分野以外では全てをフォローアップするのが難しくなってきました。本企画では、各分野のエキスパートの先生に基礎から実臨床まで解りやすくまとめていただきました。
メラノーマは希少癌ではありますが、メラノーマに対する新規治療法は他の癌種にさきがけ開発が進んでいます。そこでまず免疫チェックポイント阻害剤の解説いたします。また、熊本大学の福島先生にはBRAF阻害剤、MEK阻害剤について解説していただきました。続いて、増え続ける乾癬の生物製剤について三重大学の山中先生、日本大学の藤田先生にご解説いただきます。さらに、アトピー性皮膚炎の生物製剤に関し、京都大学の本田先生に時代を先取りしご紹介いただきました。また、自己炎症性疾患に対する分子標的薬について千葉大学の松岡先生、non-melanoma skin cancerに対する生物製剤は筑波大学の藤澤先生にお願いいたしました。もともと我々皮膚科医にとって馴染み深い分子標的薬といえば、EGFR阻害剤をはじめとしたキナーザ阻害剤です。これらが引き起こす皮膚障害について最新の知見を含めチューリッヒ大学病院佐藤先生、和歌山県立医科大学山本先生にまとめていただきました。また、今後注意すべき副作用としてセツキシマブによるアナフィラキシーを島根大学千貫先生にご解説いただきました。
読者の先生方は、専門分野に関してはもちろんのこと、専門分野以外も是非ご一読ください。新規分子標的薬の知識が整理されるだけでなく、明日の診療に役立つことと思います。