日本人は手足に出来るメラノーマが多いことは別記事で説明しました。
今回は爪のメラノーマ(悪性黒色腫)について解説します。
これも日本人に多く欧米人には少ないと言われています。
まず当然かもしれませんが、爪が黒くなっているからといって全てがメラノーマというわけではありません。
爪甲色素線条(そうこうしきそせんじょう)
黒色の縦線が入った爪を「爪甲色素線条(そうこうしきそせんじょう)」と呼びます。
これは爪の根元にある爪母で色素細胞が増え、爪にメラニンが沈着したまま伸びていくために起こります。
爪は爪の根元である爪母で作られます。
ですので、爪の根元で何かイベントが起きると爪に反映されます。
爪甲色素線条は爪の根元のほくろです。
爪の工場である爪母にほくろの細胞が混入したため、生産される爪が黒く変化を起こした結果が爪甲色素線条です。
この爪甲色素線条は良性で日本人の1%弱にあると言われています。
爪のメラノーマを心配して受診される患者さんのほとんどが爪甲色素線条です。
爪下出血
診察で次に多いと感じるのは爪下出血です。
爪の下の内出血は時間が経つと黒く変化します。
ダーモスコピーという皮膚科医用の虫眼鏡で観察すると、この爪下出血は赤みがかった黒であることが容易に判別できます。
爪の黒色変化はその他、薬剤(ミノマイシンなど)でも起きますし、外傷で爪に黒系の色がついても当然起こります。
爪のメラノーマを疑う所見
皮膚のメラノーマではABCDルールという基準をもとに、ほくろとメラノーマを鑑別しました。
爪甲色素線条(良性の爪のほくろ)と爪のメラノーマを見分けるのにもいくつかポイントがあります。
色・幅の不均一
皮膚のメラノーマでいうC (color)です。
爪に縦に入った線の幅が一定でなかったり、色調が不均一です。
逆三角形
爪の根元の黒色領域の幅が広く、前端に向かって細くなる場合はメラノーマを疑います。
これは爪の根元(爪母)でメラノーマ細胞が急激に増殖し広がったことを意味します。
ハッチンソン兆候
医学部の学生さんも習うこのハッチンソン兆候は、爪のメラノーマを疑う大事な所見です。
爪に黒色の線があるだけでなく、その線の根本を中心に皮膚にまで黒色変化がある場合、メラノーマを疑います。
この皮膚に滲み出た黒色斑をハッチンソン兆候(ハッチンソンサイン)と呼びます。
爪母のメラノーマが皮膚に増殖して拡大したサインです。
爪の破壊
これは必ずしもメラノーマだけで起きる現象ではありませんが、爪の破壊が見られた場合は注意が必要です。
爪母のメラノーマが増殖し、正常な爪が出来なくなった可能性があります。
爪の工場である爪母がメラノーマによってダメージを受けたため、脆弱な爪が生え先端では壊れてしまうために起きます。
ちなみに爪水虫でも爪の破壊は起きますし、茶色がかった黒色変化をきたすことがあります。
まとめ
爪のメラノーマを疑う4つの所見について解説しました。
爪のメラノーマは皮膚科専門医の中でも診断が非常に難しいと思います。
心配な場合は必ず専門家に診察してもらうようにしてください。
*「心にしみる皮膚の話」はAERA dot.に連載された人気記事以外にも、書き下ろしのエピソードを加えた優しい本です。まだ読んでない方はぜひ。